Japanische Klassiker mit Furigana
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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
Lesen Sie 問はずがたり・吾妻橋 他十六篇 (あづまばし) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 75.586 Zeichen · 159 Bildschirme
季子の呼吸は歩調と共に大分せわしくなっている。男はどこまで自分の後をつけて来るのだろう。線路を越した向の松原――時々この辺では一番物騒な噂のある松原まで行くのを待っているのではなかろうか。いっそ今の中、手出しをしてくれればいいのにと云うような気がして来ないでもない。
季子が男の暴力を想像して、恐怖を交えた好奇の思に駆られ初めたのは、母と共に熊ヶ谷に疎開していた頃からのことで、戦後物騒な世間の噂を聞くたびたび、まさかの場合を、或時はいろいろに空想して見ることもあった。この空想は鎌倉の姉が来て結婚のはなしを匂わせてからいよいよ烈しくなり、深夜奥の間で姉夫婦がひそひそはなしをしているのにふと目を覚す時など、翌朝まで寐付かれぬ程その身を苦しめる事があった。
突然季子は垣際に立っている松の木の根につまずき、よろけるその身を覚えず男に投掛けた。男は両手に女の身を支えながら、別に抱締るでもなく、女が身体の中心を取返すのを待ち、
「どうかしました。」
「いいえ。大丈夫よ。あなたも此辺なの。」
「僕。八幡の、会社の寮にいるんです。今夜駅でランデブーするつもりだったんです。