Japanische Klassiker mit Furigana
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じょうちゅうのしも
城中の霜
山本 周五郎
Lesen Sie 城中の霜 (じょうちゅうのしも) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.828 Zeichen · 26 Bildschirme
甚十郎は、香苗の進める茶には手も出さず、色の黒い角張った顔に、深い皺を刻みながらぶすっとした調子で云った。
「なんだ、不愉快なことって」金五が顔をあげた。
「寺で無礼な扱いでもしたのか」
「そうではない」甚十郎はぎろっと眼をあげた、「左内が泣いたと云うのだ」
「泣いたとは、つまり……」
「刑場へ曳出され、介錯の刃が上った時、両手で顔を押えて泣いたのだそうだ」
意外な言葉だった。みんなごくっと喉を鳴らし、暫くは真偽のほどを計り兼ねて沈黙した、……やがて勘一郎がぐっと向直って、詰問するように云った。
「石原、それはどこから聞いた、誰から出た話だ、まさか根もない話を……」
「その方が百倍も増しだ、根も葉もない噂ならこんな恥ずかしさは忍ばずとも済んだ、それが悲しいことに事実だったんだ」
「精しく聞こう、話して呉れ」
「貴公が先に帰って間もなくのことだ」甚十郎は吶々と話した、「……遺骸に付いて来た下役人に酒を出してやった、それは貴公も知っているだろう。あの下役人の年寄の方が酔って、泣きながら饒舌っているんだ――橋本左内は天下の志士だと聞いていたし、在獄中は獄卒までがその人柄に尊敬を払っていた、自分もまた常から心服していたが、人間の値打は棺の蓋をしてからでなくては分らぬ、あの左内が命を惜しんで泣くような未練者とは知らなかった。