Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
Lesen Sie 墓地展望亭 (ぼちてんぼうてい) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 46.485 Zeichen · 93 Bildschirme
扉は、浴室につづくのと、廊下に向った二つだけ。
竜太郎は、急に身をひるがえすと、ひと跨ぎに廊下の扉のところまで飛んで行き、力いっぱいにそれを蹴開けた。
一人の人影もなかった。長い廊下の端で、窓掛が風にゆれているだけだった。息苦しいほどの緊張が全身をひきしめる。遠い昔に忘れていた、一種決然たる闘志が発刺と胸に甦ってきた。われともなく、拳を握った。
「そういうわけなら、こちらにも覚悟があるぞ!」
それにしても、この長い間、じぶんの懐で温めていた、あの、かけ替えのない写真を盗まれたことは、どうにも諦めかねた。じぶんの身体の中の一番大事な部分が、そのままそっくり抜きとられたような遣る瀬なさを感じた。
竜太郎は、腹の底から怒りがこみ上げてきて、調子はずれな声で、叫んだ。
「畜生! どんな汚い手で浚っていきやがったんだ。……どんなことがあったって、取りかえさずにおくものか」
じぶん自身、その写真を、マラコウィッチ伯爵夫人の門番の家から、盗み出してきたことを、竜太郎は、すっかり忘れていた……。
陸軍司令部の大きな鉄門の前には、物々しく土嚢が積まれ、そこでもチェッコ機関銃が蒼黝い銃身をのぞかせていた。