Japanische Klassiker mit Furigana
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ゆめのず
夢の図
豊島 与志雄
Lesen Sie 夢の図 (ゆめのず) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.101 Zeichen · 15 Bildschirme
そのために、交渉がとぎれがちになってる木村に、わざわざ別れを告げに来たのである。来てみると、涙のなかの甘い抱擁、それ以上彼女が求めるものは何があったであろうか。彼女は満足なのである。満足だからして、しみじみと涙ぐんでいるのである。
木村の机の上にある粗末な電気スタンドからの光りは、彼女が幾度か夜更けに身に浴びたものだった。だから今、この夕方の薄暗がりに、その電灯をともすことは躊躇されるのである。机の前のメリンスの坐布団の牡丹の柄は、彼女が一緒に見立てたものだった。その色褪せた花模様を、彼女は夢み心地に見やるのである。本箱の抽出にさわってみると、鍵がかってあるけれど、そこには、彼女の幾通もの手紙がしまってあることを、彼女もよく知っている。その中の二、三の文句は、今も彼女の頭に残っていて、更に修飾されて蘇ってくるのである。――それらのものすべてが、満足な状態にある彼女を、しみじみとした感傷の谷間にひきずりこむのである。
ただ彼女に不満なのは、木村の心がはっきり捉え難いことだった。自分に対する木村の心のつながりを、どこに求めたらよいのであろうか。
彼女は立上って、しとやかに、カフェーの女給としてはいとも神妙に、涙ぐみながら、木村がいる筈の庭の方へ出て行ってみる……。