Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme
もし、彼の見えないところの眼底に、この時、一点の涙があるならば、それは春秋の筆法で慶応三年秋八月、近松門左衛門、机竜之助を泣かしむ……というようなことになるのだが、泣いているのだか、あざけっているのだか、わかったものではない。
お雪ちゃんは、何が悲しいのか泣いている。竜之助は何ともいわないで、横を向いたまま静かにしている。
そうして、しめやかな沈黙がかなり長くつづいた時分に、以前の柳の間の廊下の方で、
「お雪ちゃん、お雪ちゃん」
と呼びながら廊下を渡って来る人。そこにいないものだから、たしかにここと、バタバタと草履を引きずりながら、
「お雪ちゃん、こちらにおいででしたね、ちょっと」
「久助さんですか」
「はい」
姿は見えないけれども久助に違いないから、お雪はあわててその涙の面を隠そうとした時、
「あの、皆さんが、俳諧の運座をはじめますから、お雪ちゃんにも、ぜひ、いらっしって下さいって……」
四
その日の午後の浴室。北原賢次は板の間の上で、軽石で足のかかとをこすり、小西新蔵は湯槽のふちにぼんのくぼをのせて、いい気持になっている。
窓越しに、初冬の日の光が浴室いっぱいにさしている。