Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme
女は、どうしたものか、恨めしそうに兵馬の後ろ姿を見てはいるが、以前のように追いすがろうともしない。また、静かにそのあとを慕って来ようとするの様子も見えない。じっとその地点に立ち尽しているのです。
そうなってみると、兵馬も、多少の不安を感じないわけにはゆきません。だが、自分の強いて、つれなく言い放した言葉の手前からいっても、いまさら未練がましく後ろを振返って見るというわけにもゆきません。
いや、そう言っているうちに、また追いかけて来るだろう、追いかけて来ないまでも、何とか呼びかけてはみるだろう、というような期待もあって、兵馬は相変らずの調子で、日本アルプスを後ろに、松本平を前に、月明の夜、天風に乗じて人寰に下るような気取りで歩いて行きましたが、今度はさっぱり手ごたえがありません。後ろから呼びかける声もなく、追いすがる足音もなく、そうして、とうとう一町半ほど歩んで来てしまいました。
その時に、兵馬も、不安を感じないわけにはゆきません。
実は、不安を感ずるのはいけないのだけれど、最初の機鋒を最後まで通して、女が泣こうが、追いすがろうが、立ちどまろうが、退こうが、押そうが、動ぜずして振切り通すだけの切れ味があれば、さすがなのだが、これが無いところが、兵馬の兵馬たるゆえんかも知れません。