Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme
二十四
ムクは滅多に吠えない犬であります。
現にここへ来てからにしてが、ほとんどムクの吠えたというのを聞いたものがありますまい。ムク犬の吠えないだけ、それだけ平和であり、ムクの吠ゆる時は、尋常の時でないことは、与八もよく知っているのであります。
そうして、かなりの遠くの距離にいて、多くの雑音の中にあっても、ムクの吠ゆる声だけは、いつも殷々として聞き取ることができるのであります。
そこで与八は、何か本家の方に非常が起ったのだと胸を打たれました。その非常の程度はわからないが、ああしてムクの声が聞えたことそれだけで、人間の騒ぐより以上の何事かが突発して来たものと見て、さしつかえないのであります。そこで与八が胸を打たれて心配しました。
心配したけれども、しかし絶望はしません。
ムクの吠えたのが非常を示すと共に、ムクの存在ということが、非常な心強さを与えるものであります。何となれば、ムク犬が存することによって、幾多の人間が備えている以上の安心を、保証し得るからであります。
ひとたび心配した与八は、二度安心はしましたけれども、ともかく、ああして非常の暗示があってみれば、ここにこうしているわけにはゆかない。