Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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うしなわれたはんしん

失われた半身

豊島 与志雄

Lesen Sie 失われた半身 (うしなわれたはんしん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.545 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

ますます憂欝なのだ。

杉山さんはちびりちびり焼酎をあおった。酔うにつれて、新聞記事を裏返したような調子、つまり真実をも嘘らしく見せかけて喜んでるような調子で、いろんなことを饒舌るのである。おれの方でもさして気は進まぬが焼酎をなめながら、いい加減に返事をし、やたらに先生を連発してやった。ええ先生、ねえ先生、それから先生、然し先生……それが、少しも先生には通じないのである。ほんとに泣きたくなって、もう断然、先生をやめてしまった。それでも先生には通じない。

「天災は忘れた時に来る、というのも本当だが、災難は欲しない時に来る、というのも本当だよ。病気したくない時に病気をする。死にたくない時に死ぬる。貧乏したくない時に貧乏する。戦争したくない時に戦争が起る。怪我したくない時怪我をする。すべてそうしたものだ。」

「そんなこと、誰か欲する時がありますか。」

「あるさ。人間というものは、幸福を欲すると共に、また災難をも欲する。殊に若い時にはそうだ。そうでなければ、ヒロイズムなんか成立しない。焼酎を飲む者もなくなってしまう。」

杉山さんは愉快そうに笑うのである。だが、おれがちょっと変な気がしたのは、ヒロイズムという言葉だ。