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Japanische Klassiker mit Furigana

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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.681 Zeichen · 22 Bildschirme

Aozora Bunko

若い女はそういって立上ると、ともづなを解いた舟を中流に押出します。

「私は舟は不得手だが――」

伊予守忠弘は、そういうのが精一杯でした。

「舟は私が漕ぎます、――恐れ入りますが、火の粉が飛んで来て、とまへ火が付きそうになりましたら、その水垢くみの長柄杓で、水をお掛け下さいませ」

女は何んの躊躇もなく艪に寄ると、至って器用に漕ぎ始めながら、蟠りのない調子で、――こう忠弘に用事をいいつけるのでした。従五位下伊予守忠弘臍の緒切って以来、人に物をいい付けられたのは、これが始めて、十九歳の殿様に取って、それが又、ゾクゾクするほど嬉しくてたまらなかったのです。

舟はやがて両岸の焔の屏風を潜り抜け、おびただしい避難の舟の間を縫って一刻ほどの苦心の後漸く大川へ出ました。

「ここまで来ればもう大丈夫でございます」

女は艪を捨てて、忠弘の側に来て坐りました。たった一枚の薄縁、後ろ手に両手を突いて、胸を反らせて大きい呼吸をする女の肩が、ともすれば男の肩に触れて――あッ、又あの馥郁たる異香が――

「疲れたであろうな」

伊予守には名君が臣下をいたわるというよりは、幼い弟が姉に甘えるような調子がありました。