Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

ja-reading.com

Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.

こをうばう

子を奪う

豊島 与志雄

Lesen Sie 子を奪う (こをうばう) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 39.292 Zeichen · 80 Bildschirme

Aozora Bunko

兼子は顔を挙げた。眼が濡んでいた。睫毛の黒い影がはっきり見えるようだった。彼は黙って彼女の手を執った。冷たい手だった。彼はそれを握りしめた。そして他のことを云った。

「お母さんは?」

「お居間でしょう。」

彼は立ち上って母の所へ行ってみた。幾代は仏壇の前に坐って、手を合していた。仏壇には蝋燭に火がともされ、抹香の煙が立ち昇っていた。それを見ると彼は、眼に涙が出てくるような心地がした。然し心にもない言葉が口へ出た。

「何をしてるんです、縁起でもない!」

幾代はふり向いて眼を見張った。然し彼女は何とも云わなかった。

彼は足を返した。何を慌てているんだ! と自ら浴せかけた。自分自身が堪らなく惨めな気がした。熱い茶を飲んで、すぐに寝た。布団を頭からすっぽり被った。それは昔からやりつけてる自己催眠の方法だった。然しなかなか眠れなかった。幾度も頭を布団から出したり入れたりした。

翌朝彼は遅く起き上った。昨夜兼子が突然熱烈な態度に変って、しまいに泣き出したことを、また、自分も変に感傷的な情熱に駆られたことを、夢のように思い起した。不眠の後のような、神経の疲れと弛緩とを覚えた。