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Japanische Klassiker mit Furigana

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しょうせつちゅうのおんな

小説中の女

豊島 与志雄

Lesen Sie 小説中の女 (しょうせつちゅうのおんな) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.887 Zeichen · 16 Bildschirme

Aozora Bunko

そして隧道を過ぎたことも大船に着いたことも、殆ど気がつかなかった。

騒々しい呼売の声に、初めて私は我に返って、ぼんやり眼を見開いてみた。明々として車室の中や窓越しの歩廊の光景など、眼に映ずる世界が凡て、清冽な水にでも浸されたかのように、瑞々しく冴え返っていた。私は自分自身を取失ったような心地で、ただまじまじと眼を見張りながら、機械的に煙草を取出して火をつけた。その時誰かに言葉をかけられたとしても、私は恐らく返辞をしなかったろうし、或は突拍子もない返辞をしたであろう。

そうした空な心で、私は煙草の煙を眺めていたが、ふと、煙の彼方、私と反対の側の腰掛の斜正面の所に、視線が自ら惹きつけられた。右の耳の上で分けるともなく髪を分けて、それを額の上に高く房々となびかせ、その末を後頭部でふうわりと束ねて、黒鼈甲の大形のピンを根深にさしている、清楚な趣味の女の頭が、恐らく私と同じような無関心さで、窓の外を眺めていた。その髪形、細そりした横顔、腰をくねらしている姿勢など、全体の恰好が、私の心にぴたりときた。

「みさ子だ!」

でも私は別に驚きはしなかった。私の心はいつでも、自分の前にみさ子を見出すことを予期していた。