Japanische Klassiker mit Furigana
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さんじょうこ
山上湖
豊島 与志雄
Lesen Sie 山上湖 (さんじょうこ) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.912 Zeichen · 22 Bildschirme
その時から、私が期待していた心の的は、どこか遠くへ消えていった。山上の湖水の清冽な空気が、平田には強すぎたのであろうか。それとも、男とは、四十すぎの分別男とは、そういうものなのであろうか。旅館が遊覧客で混み合っているのもいけなかったかも知れない。然し私達はわりに静かな室に案内された。泊り客が少くひっそりしていたとすれば、どうだというのだろうか。平田はへんに情熱を失っていた。東京から二十時間足らずの汽車の旅に、疲れるほどのこともあるまい。前夜は山の下で、ゆっくり眠ったのである。そして湖畔の旅館では、酔ってうっとりしてる彼を、ああ、恥しくも私の方から揺り起した。彼は俄に年老いたようだ。年老いて愚かにさえなったようだ。あの精気と智慧とはどこへ行ったのであろうか。
月光はいくら明るくても、少し遠くの物のけじめはなかなかつき難い。湖岸からでは、ここへ下りてくる峠道はどの辺か、見定められないし、雨宿りして焚火をした小屋など、見当もつかない。
「あの小屋は、どのあたりになるかしら。」
「そうだね、遠くない筈なんだが。」
見えないことは私には分っていた。こんもり茂った木立の彼方、少し引っ込んだところにあるのだ。