Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるおんなのしょうがい

嵐・ある女の生涯

島崎 藤村

Lesen Sie 嵐・ある女の生涯 (あるおんなのしょうがい) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 47.846 Zeichen · 96 Bildschirme

Aozora Bunko

思わずお三輪は旧い馴染の東京をそんなところに見つける気がして、雨にもまれ風にさらされたようなその格子戸に取りすがって眺めた。

「あ、これはお閻魔さまだ」

この考えが、古い都会の残った香でも嗅ぐ思いを起させた。古い東京のものでありさえすれば、何でもお三輪にはなつかしかった。藍万とか、玉つむぎとか、そんな昔流行った着物の小切れの残りを見てもなつかしかった。木造であったものが石造に変った震災前の日本橋ですら、彼女には日本橋のような気もしなかったくらいだ。矢張、江戸風な橋の欄干の上に青銅の擬宝珠があり、古い魚河岸があり、桟橋があり、近くに鰹節問屋、蒲鉾屋などが軒を並べていて、九月はじめのことであって見れば秋鯖なぞをかついだ肴屋がそのごちゃごちゃとした町中を往ったり来たりしているようなところでなければ、ほんとうの日本橋のような気もしなかったのである。そして、そういう娘時代の記憶の残った東京がまだ変らずにあるようにも思われた。あの魚河岸ですら最早東京の真中にはなくて、広瀬さんはじめ池の茶屋の人達が月島の方へ毎朝の魚の買出しに出掛けるとは、お三輪には信じられもしなかった。