Japanische Klassiker mit Furigana
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かわなみ
川波
久生 十蘭
Lesen Sie 川波 (かわなみ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.022 Zeichen · 18 Bildschirme
巴里に帰りついた当座、豊川はいそがしそうにしていたが、そのうちになにか煮え切らないようになり、ル・ペリイというキャフェのテラスの椅子に掛け、シャンゼリゼェの大通りをながめながら、半日も動かずにいるようになった。
クレーデル号は、九月一日前後にマルセイユに寄港するはずだったが、ちょうどフランスの対独宣戦布告とかちあい、ブレーメン号などと同様、どこの海の果てを逃げまわっているのか消息が知れない。豊川はなにも言わないが、やはり倫子の運命を気にしているのだとみえ、クレーデル号の話になると、心の落莫は隠しきれず、渋く唇をひき結んで纒綿たる思いを見せた。
その日も豊川が誘いにきて、ル・ベリイに行った。テラスで珈琲を飲んでいると、バレーをやっているというM物産の野坂の娘が、ウルトラメールのフロックにミンクのケープをし、顔のどこかが弛んでいるような薄笑いをしながら、二人のテーブルのほうへやってきた。
「豊川さん、しばらく……あちらへ帰っていらしたんですって。お噂、聞いたわ。あなたって、見かけによらない、いいところがあるのね。豊川治兵衛はシベリヤ廻りで、三池夫人は印度洋廻りで、わかれわかれに日本を発って、九月の何日とかに、ここのテラスで落ちあって、駈落ちの相談をする約束になっていたんですって?」