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Japanische Klassiker mit Furigana

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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

Lesen Sie 巷説享保図絵・つづれ烏羽玉 (こうせつきょうほうずえ) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 365.120 Zeichen · 728 Bildschirme

Aozora Bunko

そうだ、ここはきっと江戸ではないのだ。鎧櫃の中で自分が気を失っているあいだに、車がお江戸を出はずれて、こんなところへ来たのかもしれない。そういえば、何刻、あるいは幾日気絶していたものか。あたしにはてんで時の覚えというのがないのだから。

そうだよ。ほんとにここは、もう富士の見えない国かもしれない。

何の因果でこんな遠方へ来たんだろうねえ。

雨! と女は、場合を忘れて、危うく顔を上げようとした。

おっと!

動いてはならぬ。

動いてはならぬ。

雨ではない。縁とおぼしき一方の締め切った板戸を、立ち木の枝がなでているのだ。

古沼にでも近いか、織るような蛙の声。

いよいよもってお江戸を離れている。本所の割り下水と今の自分とのあいだには、何十里、何百里の山河があるのだ、と思うと、女の眼頭が自然に熱くなって、どうすることもできない涙が一筋、ほろりと畳をぬらした。

はだけた襟もとや四肢には、春とはいえ、深夜の空気はあまりにも寒々しい。

が、動いてはならぬ。

動いてはならぬ。

たとえこのまま死んでも、このお武家たちに生きているからだをさとらせてはならない。

それまで妙に考え込んでいた吃りの主人と猫侍、女の身柄を中に、どっちからともなくぽつりぽつりと話し出した。