Japanische Klassiker mit Furigana
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まぼろしのかなた
幻の彼方
豊島 与志雄
Lesen Sie 幻の彼方 (まぼろしのかなた) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.763 Zeichen · 84 Bildschirme
然しその言葉はしっかりしていた。
「まだ暫く間がございますよ。夜中過ぎか明朝になるかも知れません。私がついていますから、御安心なさいませ。案ずるより産むが易いって、全くでございますよ。」
けれど、電灯がともる頃になると、陣痛は可なり頻繁にまた激しくなってきた。順造は大急ぎで食事を済して、秋子の室を一寸覗いた。彼女は頭をぐったり枕に押しあてて、涙ぐんだ眼を異様に輝かしていた。彼はその眼から、自分と自分を引きもぎるようにして、鈎の手の廊下で半ば離室になってる自分の室へ退いた。
もしかすると、秋子は死ぬんじゃないかしら?
ふと頭を掠めた考えが、次の瞬間には、すーっと何処かへ消し飛んで、ひっそりとなった。彼は畳の上に寝転んだ。起き上って机に向ってみた。平素愛読してるフランス革命史を、無理に六七頁読み進んでみたが、更に興が乗らなかった。それからまた寝転んだ。耳を澄しても何も聞えなかった。次第に頼り無い気持になった。長い時間がたった。
彼は突然、じっとして居られない衝動に駆られた。かすかな音が何処からともなく伝わってきた。よく耳を傾けると、唸り声とも叫び声とも息の音ともつかない、何か大きな声が一塊になってる響だった。