Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Lesen Sie 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) von 松本 泰 (まつもとたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.797 Zeichen · 107 Bildschirme
私は人垣の間を潜って、ようやく前へ出た。見ると、十数分前にサボイ劇場で、私の隣席にいた若い仏蘭西人が恐ろしい形相をして仰向に仆れている。真白なシャツの胸からカラーにかけて、生々しい鮮血が流れていた。
「心臓をやられたのだ」と誰かがいった。
「ナイフで一突にやったらしい」それに応えるものがあった。
「どけどけ、医者が来たんだ」私の傍にいた男は露路の外に停った自動車の音をきいて、後を振向いた途端、男の携っていた懐中電灯がパッと私の足下を照らしていった。その瞬間私は自分の右足のわきに、見覚えのある彼女の扇子についていた緋房を発見した。それを見ると私は我事のように胸を跳らせた。そして人々が犇き合っているうちに、大決心をもって落ちている緋房をそっと拾って掌に丸めこむと素知らぬ様子で、其場を立去った。
二
翌日は日曜であった。私は寝台の上で丸太を倒したように、前後も知らず睡り続けていた。眼を覚すと、窓を洩れてくる薄光が、壁の石版画の額縁にさしていた。私は床の上へ起上って煙草を吸ったが、無数の縄を後頭部にくくりつけられているようで、ボンヤリと昨夜の夢を追っていた。