Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Lesen Sie 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) von 松本 泰 (まつもとたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.797 Zeichen · 107 Bildschirme
私は絵画を失って悄気返っている柏に、自分だけのいい話をしにゆくのを、少し可哀相だと思っていたが、部屋へ入ると、柏は調子外れなヴィオリンを弾きながら、陽気に流行唄を歌っていた。
「おい、飯田! 今日は奢るぞ」柏は楽器を寝台の上へ投出して勢よくいった。
「どうした。絵が出てきたのか?」
「盗んだ奴が金を届けてくれたんだ。誰だか名前は判らないが、有難い事だ。千円あれば当分内職なんかせずに絵を描いて暮せる」私は柏の為に金が入った事を喜ぶと共に、不思議な買主の事を考えさせられた。どうせ金を払う位なら、何故危険を冒して会場から絵を持ち出したのであろう。柏は私の米国行をきいて、
「お互に幸運が向いてきたんだよ」と心から喜んでくれた。彼は私が不意に出発する事に就ても、自分の手許に何者からか金が送られた事に就ても、格別奇異に感じていないらしかった。尤もこの男は世の中の出来事を何一つ不思議がった験はなかった。たとえ私が伯爵の嗣子になったといっても怪まないであろう。私は夜が更けてから家へ帰って、ぐっすり寝込んでしまった。
翌朝はいつになく早起きをしたので、窓に近い栗の木に黒鳥が笛のような声で囀っていた。