Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Lesen Sie 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) von 松本 泰 (まつもとたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.797 Zeichen · 107 Bildschirme
淋しい夕暮の港に佇って、遠ざかってゆく汽船を見送る時に、誰もが味うような、核心のない侘しさを感じていたのである。その寂しさの奥に倫敦の紅い灯火が滲んでいた。そこにはモニカがいる。美しいモニカがいる。
私は影のように停車場へ戻っていった。
八
一晩中、汽車に揺られ通して、翌朝倫敦へ着くと、恐ろしい霧の日が私を待っていた。私の懐中にはつつましくすれば二年間は暮せるだけの金があったが、衣類其他を全部ダイアナ号に積込んでしまったので、着のみ着のままであった。
私は霧の中を彷徨い歩いて、ようやくグレー街のガスケル家に着いた。老人の落着先が判れば托された品を次の便船で送り届ける事が出来ると思ったからである。
黄色い霧に鎖された家の窓には売家と書いた赤い札が貼ってあった。凡てが遠い遠い昔の出来事のように思われた。昨日まで、私の暮していた大きな建物は、私とは何の交渉もないように冷かに立っている。
頭の上には光輝を失った太陽が、赤い提灯のように懸っていた。往来の人影も、車も、馬も、影絵のように動いていた。何も彼も嘘のようである。
私は公園の鉄柵に沿って、柏の宿を訪ねた。