Japanische Klassiker mit Furigana
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びしょう
微笑
横光 利一
Lesen Sie 微笑 (びしょう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.911 Zeichen · 50 Bildschirme
それにしても、栖方を狂人だと判定して梶に云った高田が、その栖方の祝賀会に、梶を軍港まで引き摺り出そうとするのである。技師の宅は駅からも遠かった。海の見える山の登りも急な傾きで、高い石段の幾曲りに梶は呼吸がきれぎれであった。葛の花のなだれ下った斜面から水が洩れていて、低まっていく日の満ちた谷間の底を、日ぐらしの声がつらぬき透っていた。
頂上まで来たとき、青い橙の実に埋った家の門を這入った。そこが技師の自宅で句会はもう始っていた。床前に坐らせられた正客の栖方の頭の上に、学位論文通過祝賀俳句会と書かれて、その日の兼題も並び、二十人ばかりの一座は声もなく句作の最中であった。梶と高田は曲縁の一端のところですぐ兼題の葛の花の作句に取りかかった。梶は膝の上に手帖を開いたまま、中の座敷の方に背を向け、柱にもたれていた。枝をしなわせた橙の実の触れあう青さが、梶の疲労を吸いとるようであった。まだ明るく海の反射をあげている夕空に、日ぐらしの声が絶えず響き透っていた。
「これは僕の兄でして。今日、出て来てくれたのです。」
栖方は後方から小声で梶に紹介した。東北なまりで、礼をのべる小柄な栖方の兄の頭の上の竹筒から、葛の花が垂れていた。