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Japanische Klassiker mit Furigana

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おんしゅうのかなたに

恩讐の彼方に

菊池 寛

Lesen Sie 恩讐の彼方に (おんしゅうのかなたに) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.824 Zeichen · 46 Bildschirme

Aozora Bunko

と、いった。市九郎は、お弓のこの言葉を聞くと、お弓がすでに恐ろしい計画を、自分に勧めようとしているのを覚えた。藪原の宿までにはまだ二里に余る道を、もう何ほどもないようにいいくるめて、旅人に気をゆるさせ、彼らの行程が夜に入るのに乗じて、間道を走って、宿の入口で襲うのが、市九郎の常套の手段であった。その男は、お弓の言葉をきくと、

「それならば、茶なと一杯所望しようか」といいながら、もう彼らの第一の罠に陥ってしまった。女は赤い紐のついた旅の菅笠を取りはずしながら、夫のそばに寄り添うて、腰をかけた。

彼らは、ここで小半刻も、峠を登り切った疲れを休めると、鳥目を置いて、紫に暮れかかっている小木曾の谷に向って、鳥居峠を降りていった。

二人の姿が見えなくなると、お弓は、それとばかり合図をした。市九郎は、獲物を追う猟師のように、脇差を腰にすると、一散に二人の後を追うた。本街道を右に折れて、木曾川の流れに沿うて、険しい間道を急いだ。

市九郎が、藪原の宿手前の並木道に来た時は、春の長い日がまったく暮れて、十日ばかりの月が木曾の山の彼方に登ろうとして、ほの白い月しろのみが、木曾の山々を微かに浮ばせていた。