Japanische Klassiker mit Furigana
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あいのごとく
愛のごとく
山川 方夫
Lesen Sie 愛のごとく (あいのごとく) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 103.908 Zeichen · 210 Bildschirme
黒いスーツの胸に真珠らしい首飾りを巻き、色白で首のながいその女はひときわ目立って美しい顔立ちをしていた。信二は、ふとその暗い片隅に吸われて行く自分を感じていた。さわがしい嬌声や叫びごえや、演奏やステップの音の雑然とした渦のなかに、そこだけぽっかりと音のない世界が穴をあけたように、女の周囲には特別なしずかな澄んだ空気があり、それが女を包んでいた。べつに、その美しさが信二を惹いたのではなかった。女は疲れた、無気力な表情をうかべていた。ぎらぎらした、なまなましい原色のあざとい他の女たちの印象とかけはなれて、黒いスーツの女には、ある稀薄な、退屈をわがものとした人のひそやかな落着きも感じられた。白い拳を口にあてて、女はちいさく欠伸をする。手をのばして、正面に坐っている兵士の胸からなにかをつまみあげて、それを肩を引くようにして床に落した。そのままながいこと床をみつめていた。頬の微笑を消さなかった。
そのテーブルでは、ほとんど会話をしている気配は見えなかった。上流の人ではないにしても、黒いスーツの女は、中流の家庭の歴史と習慣を身につけている人のように思えた。若い未亡人を思わせるその黒づくめの装いのなかで、青白いなめらかな肌が冴えざえとしていた。