Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおんなのしゅき
或る女の手記
豊島 与志雄
Lesen Sie 或る女の手記 (あるおんなのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.447 Zeichen · 37 Bildschirme
つきつめて考えると、深い真暗な井戸の中を覗くような気がしながらも、彼に対するやさしい情が消えなかった。その矛盾が、いつまでも解決のつかない矛盾が、絶えず私を苦しめた。夏の休暇になっても、私の心は少しも晴々としなかった。
彼の其後の消息は、兄さんの所へも和尚さんの所へも、全く分らなかった。警察の方へ内々頼まれた捜索さえ、何の結果も齎さなかった。それでも私は、あれから後、出来るだけお寺の前を通らないことにしていた。通るのは恐ろしかった。彼をなつかしみながらも、云い知れぬ懸念に脅かされた。
そして更に、私の前には、約束の時日が鉄の扉のように聳えていたのである。三月の末に私は女学校を卒業した。そして一先ず故郷に身を置くこととなった。出発前に私は兄に連れられて、和尚さんへ暇乞いに行った。
その時私は初めて、「猥リニ出入ヲ禁ズ」という札の掛ってるお寺の門を、兄さんと一緒にくぐったのである。お寺の庭は思ったより狭かった。中にはいってみると、そう綺麗な閑寂な庭でもなかった。大きな石碑はこのお寺の最初の和尚さんの記念碑であった。その碑につき当って左に折れると、すぐに本堂があった。