Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ほうろうのやど

放浪の宿

里村 欣三

Lesen Sie 放浪の宿 (ほうろうのやど) von 里村 欣三 (さとむらきんぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.066 Zeichen · 28 Bildschirme

Aozora Bunko

――もっと適切に言うならば、この男の親切な言葉に対して、何かこう精一杯な、感謝の心持の溢れた言葉だけででも報いたかったからだ。

「遠慮するな。困った時はお互だよ!」

彼は相変らず無感動な表情で虱を殺しつづけた。

「有難うよ!」

若者は訳の判らない感動で、反って無技巧な言葉を単純な感激で押し出してしまった。新聞紙をめくって黒パンを手にした。香ばしい匂いがぷんと来る。――ざらついてはいるが、心持ねばついた福よかな、その感触は一体何日ぶりに経験する快よさであったろうか! 若者はともすると、瞼に溢れて来る涙を危ぶみながら黒パンの塊を二つに引き裂いて、ごくんと唾液を胸元深くのみこんだ。そして次の瞬間には、餓鬼のように貪りついていた。

若者が眼を醒したのは、翌日の夕方であった。一昼夜ぶっ通しに眠むり通して、まるで魂を置き忘れた人間のように、ふぬけた格好で起きあがった。何かの悲鳴を聞いたようにも、またそうでないようにも思われた。

ドアが忙しそうに開いたり、閉ったりした。まだ若者の知らなかった支那服の男、それに逞しい体格の黒眼鏡の男、虱をひねり潰していた昨日の男、それから大連から歩いて来たと云われる青年の四人が、それぞれ忙しく水を汲み込んだり、短刀を研いだり、子供を追い散らすために、怒鳴ったり喚めいたりしていた。