Japanische Klassiker mit Furigana
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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Lesen Sie 新潮記 (しんちょうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 155.541 Zeichen · 305 Bildschirme
その客はほかに誰もよばず、河の見える四帖半でひとりしずかに盃を嘗めていた。年は五十二三とみえるが、或いはもっと上かも知れない。色の黒い、中肉の緊った顔つきで、切っそいだような輪郭の正しい頬と、おっとりしていながら底光りを湛えた双眸に、どこやら人を圧するものが感じられる。……はじめての席には土地の老妓が二人いた。絃も唄もないしずかな座敷で、そのうちに客が横笛をとりだして一曲しずかに奏した。短いものだったが、まるで耳馴れない、秋の深夜に空高くわたる風を聞くような曲だった。
――なんという曲ですか。
そう訊いたが、客は笑って、
――古い無粋なものだ。
と答えるだけだった。あとをせがんでも二度とは手にしなかった。三度めには梅八ひとりがよばれた。そのときも笛を聞いた。そのときには、かつて聞いたことのある春日流の「松風」という曲だと思えたが、梅八はなにも云わなかったし、客も一曲しずかに吹くと、あとは忘れたように笛をおいてしまった。そのとき梅八はその客をお能師かなにかであろうと思った。
「お待たせ申しました」
「ああ」客ははいって来た梅八におっとりと笑ってみせ、此処へ来いというように窓際をさした、梅八は云われるままにそこへ坐った、「また降りそうだな」