Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

鶯の老けた声が小鳥の囀りを圧して梢から絶えず聞えて来た。昨夜の雨でまだ濡れている日蔭の道を、ウィーン風の立派な白い髯の老紳士が、杖をつきつき衰えた歩みを運んで来る。千鶴子は口についたミルクを手巾で拭きながら、

「あなたも俳句お作りになるといいわ。」

と矢代にすすめて笑った。

「もうそれどころじゃない。こんなところにいると、何をしていいか分らなくなりますね。まるで馬鹿みたいだ。」

足もとへ擦りよって来る栗鼠の敏捷に動く尾を見降ろしていた矢代は、全く張りのなくなったように、清澄な空気の中で今にも欠伸の出そうな顔であった。

「こんな美しいところで人間が一生棲んでいたら、非常に勉強したくなるか、博奕ばかりやりたくなるかもしれないな。」

「でも、ここはオーストリアじゃ、一番お金持の多いところだそうでしてよ。」

「それや、人の胆をこんなに抜けば、お金は儲かりましょう。氷河で儲けようってんですからね。」

大樹の繁った園内では真空のように一本の木の葉も動かなかった。小鳥の声のよく響く樹幹をめぐり、薄紅色の紫陽花の群れが蜂を集めている。矢代は片頬を肱で支えテーブルに凭れているうちに、卓布の上を這う山蟻がだんだん大きく見えて来た。