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Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

困ったものだな。」

と久慈はよく母を叱ったことがあった。

「いえいえ、わたしらはずっとこの通り先代から伝って来たことを守って来て、一度も間違ったことはないのだから、良い方位の通りに動いておれば安心です。人間は安心さえ出来れば倖せじゃないの。」

と母は母で伝来の素朴な考えを守りつづけ、鼠や牛を初めとする十二支と九つの星との抽象物を自分の科学の基本として、あたかもそれが久慈の信じる西洋の抽象性と等しい力を持つものと思い込み、誰が何んと云おうとも動こうとしなかった。

「この足の下の半球は、方角ばかりで動いているのだ。それが三千年も続いて来てまだ倦きようともしないのだ。」

こう思うと久慈は母へ出す手紙も健康のこと以外には、あまり書く気が起らなかった。しかし、何んと云ってもそれが東洋の自分の母であってみれば仕方もない。ときどき思い出したように、出す手紙の端にこちらでは物が六万倍に拡大されて見える顕微鏡のあることや、宇宙の方位の端まで見える望遠鏡のあることなどを書き、母の信じる運命学をぶち壊そうと試みたこともあった。しかし、今からでは暗い母の頭の中へ光線を射し入れることは不可能だと気附くと、唯一無二の信条としている自分の科学的精神の威力も、まだまだ説得力に於て考えねばならぬところがあると悟った。