Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

からりと晴れている空にも街にも微風さえないのどかさだった。

「あたしね、ロンドンへ一寸帰ろうかと思うのよ。またすぐ来てもいいんだけれど、それとも、もうそのまま日本へ帰ろうかとも考えてるの。」

「もう少しいなさいよ。巴里祭までいなきゃつまらないな。また出て来るにしたってなかなか億劫だし、それに君こんないい所はもうないよ。実際ここは素敵だ。僕は自分がパリにいるんだと思うと、もうそのことだけで幸福だ。石の屋根の上にこんな菖蒲の花が咲いてるんだからな。楽しんで見なさいよ。罰があたるぞ。」

久慈は微笑しながら菖蒲を眺め建物の上に流れている浮雲を見ているうちに、ふと紅海を渡って来る船中での千鶴子との親しかった日日を思い出した。それは恋愛というべきものではない、心やすさのままな自由な交際であったが、そのころはまだ千鶴子は矢代ともあまり言葉も云わない間だった。それがいつの間にかうかうかとパリに夢中になっている隙に、久慈は二人の結婚の斡旋を喜ぶ位置に変っているのである。一つは矢代が千鶴子との接近をある一定のところがら動かそうとしないのも、船中での自分と千鶴子との親しさを見知っている遠慮も、まだとりきれないのであろうと久慈は思った。