Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
いつも階段で擦れ違うだけで話をしたことがなかったが、近ごろ愛人の出来たらしい様子は日曜日のいそいそとした明るい素振りなどでもよく分った。久慈は隣室の娘の晴やかな歌を暫く黙って聞いていてから云った。
「いい気持ちだな。映画のパリの屋根の下じゃ、こういうときにどっかから手風琴が聞えて来たが、今日のはファッショのお説教か。」
「じゃ、外へ出ましょうよ。あたし、今夜は塩野さんのお約束があるんですのよ。また夜会なの。いっかも日本の鮭の缶詰をこちらへ輸入する下工作の夜会があったのよ。その鮭まだなんですって。ほんとに夜会は疲れていやだわ。」
「鮭のお使いだな。竜宮みたいでいい話だな。」
と久慈は云って起き上って来ると鎧戸を閉め、千鶴子の後から部屋を出た。階段を降りて行った下の手紙箱に日本の妹からと、旅行に出た会話の教師のアンリエットからと、二通手紙が久慈に来ていた。アンリエットは千鶴子がロンドンへ廻っている間に久慈と親密になった間だったから、特に理窟をつけて云えば、久慈と千鶴子との船中での親しさを裂く役目に効果のあった人物だった。しかし、久慈にしてみれば、パリでの婦人との恋愛に似た感情の動きのごときは一種の装飾のごときものであったので、彼こそどちらかと云えばパリに恋愛を感じているものと云える。