Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
まだ母はひとり起きていた。彼は奥座敷で帰った挨拶を母にし直してから、初めて襖や天井を見廻した。廊下の方から幽かに肥料の漂って来るにおいがした。ふと彼は永く忘れていた子供のころのまま事を思い出した。柱の手擦れた汚れや、砂壁の爪の痕跡など、それぞれ自分の身を包んでいた殻のように感じられ、加わる疲れのまま見降ろしている畳目が、無きに等しい軽やかなもの思いに似て見えた。彼は母の出してくれた茶をただ今はがぶがぶ飲むばかりだった。
「へんなものだなア。お茶がうまいというのは。もう一ぱいくれませんか。」
矢代は母に、こう云いながらも、そんなことを云おうとしていた自分ではなかったと思った。しかし、何ぜこんなに悲しくさみしいのだろう。嬉しくて溜らぬ筈だのに、それに何ぜこんなにさみしいのだろう。それは云うに云われぬことだったが、今の自分のこの気軽さや歎きなど誰に洩してみたところで、忽ち押し流されてしまうそぞろな空しさだと思われた。彼はまた元気を出し浴衣を着替えに立ち上った。
ひと風呂浴びてから彼は母の前で横に身を崩すと、ようやく自分の家にいるらしいくつろいだ気分に幾らかなった。