Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
見ればいい。ここを。」
片側の鋪道に青い瓦斯灯が立っていて、人一人も通らぬその横には蘚の生えたような石の建物がみな窓を閉め道に添って曲っている。矢代はマロニエの太い幹と高い鉄柵との間を歩きながら、森閑とした夜のこの通りの美しさに今はもう云い争う元気もなくなった。
「矢代さんはどこにいらっしゃるの。」
まだ一度も婦人と腕を組んで歩いたことのない矢代は、アンリエットから力を込めて腕を組まれても片身が吊り上っているように感じられ、ともすれば足が乱れようとしかかった。
「ラスパイユ、三〇三です。」
「三〇三。」
同じ番地に一つより家のないパリでは、番地を云えばすぐ建物が浮んで来るらしく、アンリエットも、「ああ、あそこ。」と頷いて、
「じゃ、明日行ってよ。夕方の六時に行くわ。」と慰める風に云った。
「どうぞ。」
と矢代は云ったものの久慈の顔色も少しは考えねばならなかった。
「君、いいのかい?」
「まア、いいや、僕はここでならどんな目に逢おうと満足だ。ここのこの美しさを見ろウ。」
渋い鉱石の中に生えているかと見える幹と幹との間に瓦斯灯の光りが淡く流れ、こつこつ三人の靴音が響き返って聞えて来る。