Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
ことでしょう。」
槙三はこのときだけ「うむ」と低くひとり頷いた。しかし自分の護っている学問の世界だけは微動もさせまいとする薄笑いが、再び彼の唇から洩れて来た。
次の朝矢代は小屋から温泉へ行った。千鶴子の部屋を覗いて見ると、槙三だけがまだよく眠っていたので起さず、彼は湯へ引き返した。濃霧がいつもの朝のように浴場に立ち籠めていて、昨日雪の中へマスクを捺しつけていた三人の婦人の声だけ、特別喧しく耳に聞えた。
矢代は湯の中に千鶴子のいることを感じていた。昨日の朝はどういうものか浴場で顔を合したくはなかったのに、今朝は間もなく別れて千鶴子が帰るためもあって、その前に二人きりで話したく思い、絶えず彼は霧の底からあたりを見廻した。槙三から離れてただ二人きりになるためには、実際この朝の浴場のひとときより矢代には時間がなかった。それも昨夕計らず千鶴子から云い出した婚約のこともあるのに、まだこんな場所を撰ばねばならぬ二人だと思うと、矢代は外国の旅というものの、二人が会うためにはいかに広く特殊な世界だったかを思い、今さらに驚き振りかえってみるのだった。
彼は浴場を一廻りしてみてから、隅の方で身体を流している婦人らしい人影の傍へ近よってみたが、身体の輪郭だけ朧ろに曇って見えるだけで、やはり誰が誰だかよく分らなかった。