Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
もしかすればそれは千鶴子の母のかもしれないと矢代は気がかりだった。千鶴子が三人の客の名を告げてあるなら、彼女の母にしても出るべきかどうか迷うであろう場合だったが、こんな夜分の遅いときには、皆が帰った後から母に来客の名を報らす捌きも考えての上で、招じ入れたにちがいないとも思われた。しかし、それにしても、自分のこの家へ来るのはやはり少し早すぎたと矢代は思った。間もなく、今まで暗かった庭の芝生の一角に、応接室からの洩れ灯以外の別の光りが射し、一本立っている樅の太い幹が浮き出ていた。そして、襖を開けたてする音につづいて間もなくドアが開いた。
「やア、これは――遅くから失礼してるんですよ。」と塩野は頭髪を撫でつけ、千鶴子の母らしい人に立って云った。
「まア、わざわざ送っていただいたりしましてね。由吉が電話で今夜は帰れないって云って来たもんですから、そのつもりで早く寝みましたのよ。」
塩野にゆっくりした口調でそういう千鶴子の母は、矢代の方を少しも見ようとしなかったが、それでも無意識にむじな菊の着物の襟を併せていた。千鶴子には似ない細い眼尻の下り気味のところや、下ぶくれの豊かな頬には、幾らか気ままな感じも含み、特に長めの睫毛の影には、裕福そうな落ちついた品もあった。