Japanische Klassiker mit Furigana
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うえの
日和下駄 一名 東京散策記
永井 荷風
Lesen Sie 日和下駄 一名 東京散策記 (うえの) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 33.955 Zeichen · 70 Bildschirme
巷の声
日々門巷を過る物売の声もおのずから時勢の推移を語っている。
下駄の歯入屋は鞭を携えて鼓を打つ。この響は久しく耳に馴れてしまったので、記憶は早くも模糊として其起源のいつごろであったかを詳にしない。明治四十一年の秋、わたくしが外国から帰って来た時、歯入屋は既に鞭で鼓を打ちながら牛込辺を歩いていたようである。
その頃ロシヤのパンパンと呼んで山の手の町を売り歩く行賈の声がわたくしには耳新しく聞きなされた。然しこれとても、東京の市街は広いので、わたくしが牛込辺で物めずらしく思った時には、他の町に在っては既に早く耳馴れたものになっていたかも図られない。
凡門巷を過行く行賈の声の定めがたきは、旦暮海潮の去来するにもたとえようか。その興るに当っては人の之に意を注ぐものなく、その漸く盛となるや耳に熟するのあまり、遂にその消去る時を知らしめない。服飾流行の変遷も亦門巷行賈の声にひとしい。
明治四十一年頃ロシヤのパンパンが耳新しく聞かれた時分、豆腐屋はまだ喇叭を吹かず黄銅製の振鐘を振鳴していたように、わたくしは記憶している。煙管羅宇竹のすげ替をする商人が、小さな車を曳き其上に据付けた釜の湯気でピイピイと汽笛を吹きならして来たのは、豆腐屋が振鐘をよして喇叭にしたよりも尚以前にあったらしい。