Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.765 Zeichen · 21 Bildschirme
梅雨のあがった或る日、持って帰ったまま手もつけずにあった荷を少しずつ片付けはじめていると、思わぬところから種子袋が出てきた。……なんの種子だったかしら、菊枝はその小さな黒い粒子を掌にころばしてみながらしばらく考えていたが、やがて唐苣だということを思いだした。
「そうそう姑上さまの御好物だった」
唐苣は不断草ともいって、時なしに蒔き、いつでも柔らかい香気のある葉が採れる、登野村の姑がなによりの好物で、――これだけは絶やさないようにしてお呉れ。と云い云いしたのである。
「たいそうお好きだったけれど、いまでは誰があの畠の世話をしているかしら」眼が不自由で勘の悪い姑のことが思い遣られ、菊枝はつい声をしのんで噎びあげた。――良人はわたくしを望んで下すった。それなのに半年あまりの縁で去られたのはなぜだろう。わたくしがふつつか者で気がうとかったせいかしら、あのように急にお気性が変ったのも、ただわたくしがお気に召さなかったためかしら、それともほかにわけがあるのだろうか。思いだすと絶望が迫ってきた。「自分がふつつかなのだ」と諦めながら、けれどできるだけの努力をして酬われなかった数々の事実が記憶にうかび、もう人も世もわからないという気がして、片付けていた物を投げだして泣き伏してしまった。