Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.620 Zeichen · 26 Bildschirme
幸い相客もなく、大人もたいそうおよろこびで、お手ずから茶を点てて下すったりした。そのとき御門下の方々のお噂が出て「そういえば御国許には長橋千鶴というひとがいる筈だ。私が京に居た頃からの雅友で、会ったことはないが十年の余も文の往来が絶えない。おいでになったらぜひ訪ねてごらんなさい……」そう仰しゃったが、私は気がうわずっているようでおちつかず、半刻ほどお話を伺っただけでおいとまをした。
四月の末に江戸を立った一家は五月中旬に御城下へ着いた。生れてから十八年のあいだ御屋敷の門を出ることさえ稀だった私には、移りゆく途中の風物がただめずらしくて、子供のように目を瞠ったり嘆息のしつづけだった。それより半年ほどまえに三兄は他家へ養子に入っていたが、父と兄夫婦と二人の下僕がいっしょだったので、憂いものという旅の味は知らず、峠路の駕に興じたり、雨の宿りを侘びしがったり、高原の道に馬をせがんだりして、いつか知らず故郷の土を踏んでしまったのである。……けれども御城の北がわにある家に草鞋をぬぎ、五日ほどして着いた荷を解くじぶんから、はじめて私は江戸を去って来てしまったという悲しいやるせない気持を感じだした。