Japanische Klassiker mit Furigana
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むかしのかじ
昔の火事
宮本 百合子
Lesen Sie 昔の火事 (むかしのかじ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.494 Zeichen · 21 Bildschirme
国防色の平べったい袋をいつか鏡のところへ置き忘れて行った若いのがあった。財布でもなしと、碌三が白い上っぱりの裾で手を拭いて、そっとあけてみたら、それはピンポンのラケットであった。五十八になっている碌三は、それを眺めながら、何か沁々と今の若い者の生活やたのしみが自分たちの若衆時代とちがって来ていることを感じ、羨望とも、哀感ともつかない気持で暫くラケットをひっくりかえして見ていた。
景気に波がある。このことは、碌三の頭をはなれないことである。同じ土地整理組合に入っていても、所有地が裏だったりいろいろの不便な条件にあることはやむを得ないとして、整理組合がそこいらまで道路を開鑿したりしないうちに、今のこの景気の波がすぎてしまいやしないかという不安は、絶えず碌三の念頭にある。碌三にとって、猛之介がもったいらしく述べるような金儲けの哲学も、つまりは持地が三倍もの価でうれた当今の人間の腹からこそひとりでに出るのようなものだと、余りいい気持でもきけないわけである。
ふいと興醒めたような気になって、碌三は鋏の音たかく、二三ヵ所仕上げのようなことをし、まあ、こんなとこかね、と、椅子をはなれて、バットの箱へ手をかけた。