Japanische Klassiker mit Furigana
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ばんしゅん
晩春
岡本 かの子
Lesen Sie 晩春 (ばんしゅん) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.721 Zeichen · 4 Bildschirme
それに視線を奪われまいと、彼女はしきりに瞬きをしながら堀の底を透かして見ようとする。
ただ一匹、たとえ小鮒でも見られさえすれば彼女は不思議と気持が納まり、胸の苦しさも消えるのだったが……鈴子が必死になって魚を見たがるのと反対に、此頃では堀の水は濁り勝ちで、それに製板所で使う機械油が絶えず流れ込むので魚の姿は仲々現われなかった。
魚を見付けられぬ日は鈴子は淋しかった。落ち付けなかった。胸のわだかまりが彼女を夜ふけまで眠らせなかった。魚と、鈴子の胸のわだかまりに何の関係があるのかさえ彼女は識別しようともしなかったが……鈴子は二十歳を三つ過ぎてもまだ嫁入るべき適当な相手が見付からなかった。山の手に家の在る女学校時代の友達から、卒業と共に比較的智識階級の男と次ぎ次ぎに縁組みして行く知らせを受けて、鈴子は下町の而も、辺鄙な深川の材木堀の間に浮島のように存在する自分の家を呪った。彼女は、自分の内気な引込み思案の性質を顧みるより先に、此の住居の位置が自分を現代的交際場裡へ押し出させないのだと不満に思う。その呪いとか不満が彼女のひそかな情熱とからみ合って一種の苦しみになっていた。