Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けいきのこちらがわ

景気のこちら側

山本 周五郎

Lesen Sie 景気のこちら側 (けいきのこちらがわ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.530 Zeichen · 3 Bildschirme

Aozora Bunko

た。その芋はその子のこぶしよりずっと大きく見えたのに、なんの苦もなく小さな口へすぽっとはいってしまい、四つぐらいの子は泣き声をあげながらむしゃぶりついて、おれの芋だとわめきたてた。

「なにをばたばたあばけてるだ」と母親がしかった、「なにがどうしたのさ」

五歳くらいの子が即座にいった、「おれの芋をよこせっていうんだ」

いまほうりこんだ芋はどうなったのか、口の中にはなにもないような、はっきりした言葉であった。母親は泣き声をあげている小さいほうのほおを、平手でかなり強くたたいた。

「このずくなし」と母親はいった、「兄のくせに弟の物を欲しがるまぬけがあるか」

五つくらいにみえるほうが弟だったのである。四歳くらいにみえる兄はべそをかき、車の中の幼児はよだれにまみれた顔を芋だらけにして、うなったり、じれて暴れたりしていた。

その女はかれらを、託児所へ預けることもできないのだろうか。もしも夫がなく、ほかに頼る者もなく、小さな四人の子を、自分ひとりで育てながら生きてゆくとしたら、夜半の寝ざめなどにどんなことを思うだろうか。

あまてらす景気のこちら側には、これよりもっと悲惨な、救われがたい人たちが数えきれないほどいる。