Japanische Klassiker mit Furigana
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こよみ
暦
壺井 栄
Lesen Sie 暦 (こよみ) von 壺井 栄 (つぼいさかえ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 56.332 Zeichen · 112 Bildschirme
青い海は家々の屋根の向うに静かな湖のようにひろがっている。昨日高松へ出帆した日向丸はまだ見えるはずもないのに、いねは習慣的に浮ぶ帆影の一つ一つを見比べた。
「もうえい加減でお父さんにも船をやめてもろうて、うちで仕事になってもらわんと」
このごろ始終洩す言葉であった。今では八重も高子も働いていて家の足しになっているし、小さいながらも我家もできたし、年寄り仕事に家でまたもとの桶でもやったら、というのがいねの意見なのであった。
「お母さん、八重が家を出たら困るか」
あまりと突然の八重の言葉なので、いねは咄嗟に返事も出ず、唾をのんで立ち上り、もぞもぞしながら八重の横顔を見た。真直ぐに遠くの方を見つめている顔が娘らしくほてっている。あれだ、あのことだ、と八重が今いいだしたことの因をはっきり我心に感じながら、そして何とかいわねばと思うのだが、こうした場所で、しかもこうまではっきりした言葉で聞かれると、いねはまごまごとして言葉が出てこなかった。そして、その八重の短い言葉を聞いただけで、突っかい棒を外されたような気持になり、へたへたとまた道端へ腰を下した。
一と月ほど前のこと、灯台守の坂田さんがどこかへ転任になるのだといって八重はその日そわそわしていた。