Japanische Klassiker mit Furigana
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あらの
曠野
堀 辰雄
Lesen Sie 曠野 (あらの) von 堀 辰雄 (ほりたつお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.315 Zeichen · 21 Bildschirme
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なかば傾いた西の対の、破れかかった妻戸のかげに、その夕べも、女は昼間から空にほのかにかかっていた繊い月をぼんやり眺めているうちに、いつか暗にまぎれながら殆どあるかないかに臥せっていた。
そのうちに女は不意といぶかしそうに身を起した。何処やらで自分の名が呼ばれたような気がした。女の心はすこしも驚かされなかった。それはこれまでも幾たびか空耳にきいた男の声だった。そうしてそのときもそれは自分の心の迷いだとおもった。が、それからしばらくその儘じっと身を起していると、こんどは空耳とは信ぜられないほどはっきりと同じ声がした。女は急に手足が竦むように覚えた。そうして女は殆どわれを忘れて、いそいで自分の小さな体を色の褪めた蘇芳の衣のなかに隠したのが漸っとのことだった。女には自分が見るかげもなく痩せさらばえて、あさましいような姿になっているのがそのとき初めて気がついたように見えた。たとい気がついていたにせよ、そのときまでは殆ど気にもならなかった、自分のそういうみじめな姿が、そんなになってまだ自分の待っていた男に見られることが急に空怖ろしくなったのだった。そうして女は何も返事をしようとはせず、ただもう息をつめていることしか出来なくなっている自分の運命を、われながらせつなく思うばかりだった。