Japanische Klassiker mit Furigana
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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
Lesen Sie 木曽御嶽の両面 (きそおんたけのりょうめん) von 吉江 喬松 (よしえたかまつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.819 Zeichen · 32 Bildschirme
そして馭者の方へ向ってちょっと手を挙げた。すると馬車はまた動き出した。
「何だろう。」車中の者は話し出した。
「オイ、馬車屋さん、今のは何だえ、出し抜けに、え。」と幕の端をちょっと引いて吹きつける雨に顔を背けながら訊くと、馭者はちょっと振り返って、
「何に探偵でさあ。」
「探偵? 何の探偵だえ。」
「何に、つい二、三日前にね、山の中で林務官を殺して逃げた奴があるでね、其奴が何でも坊様の風をして逃げたって事だで、其奴を探すんずらい。」
馭者は度々此様な事に逢うのか、別に気にも留めていないようだ。雨はまた一しきり烈しく降る。その降り灑ぐ音、峰から流れ落ちて来る水の音、雷鳴はまだ止まない。車中の者は身を縮めて晴れるのを待つばかり。話しすら存分には出来ない。宮越、原野、上田などは雨中に過ぎた。福島の町に入ろうとする手前で雨は晴れた。夕日が遠い山の頂を射て藍青の峰が微に匂う。福島は川を挟み山を負うた心地よい町である。林務官殺しの話は此処にも聞えていた。福島に一泊。
福島から御嶽の頂上まで十里の間、その半ばは王滝川の渓流に沿うて溯るのである。この山中の路は登り下りの坂で、松木林、雑木林、あるいは碧湍の岸を伝い、あるいは深淵を瞰下して行く。