Japanische Klassiker mit Furigana
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ほんじょまつざかちょう
本所松坂町
尾崎 士郎
Lesen Sie 本所松坂町 (ほんじょまつざかちょう) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 27.622 Zeichen · 55 Bildschirme
まるで何かに追いかけられ、咄嗟に逃げこんできたようなかんじである。
「藤やん、栗が焼けたから来いって」
「栗?」
「うん、おっかアが来てくれって」
「栗なんか喰いたかねえや」
「そいだがね」
「何だい?」
藤作は薪割りの手斧を振りあげながらいった。
「わるいやつが来とるんだよ」
「誰だ?」
「こび権がね――いやなやつ、おっかアをいじめるんだよ、それで、帰るまで藤やんが来てくれたらいいって」
「ふうん、こび権が何しに来とるのかや?」
「藤やん、来ておくれよ」
お絹が前掛けで顔をおさえ、しくしくと泣きだした。大柄なお絹の姿は女らしさが目立つだけに、藤作の眼にいたいたしく映った。
こび権は藤作にとっては村の大人である。大人が何を仕出かそうと子供が入ってゆく余地はない。しかし、お絹のおふくろが苛められているとすればこいつはだまっているわけにはゆかぬ。大人よりも図体の大きい藤作は、こび権に対する不安も恐怖感も持ってはいなかった。
事件はそれから三十分足らずのあいだに起ったのである。囲炉裏を前にして、おのぶを口説いていた「こび権」は話の埒があかないのに業を煮やしていた。いや、業を煮やしているように見せかけていたのである。