Japanische Klassiker mit Furigana
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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
Lesen Sie 松風の門 (まつかぜのもん) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.862 Zeichen · 26 Bildschirme
洞窟の入口は疎らに草で蔽われていて、その中に一寸ほどの深山竜胆が飛び飛びに可憐な花を咲かせていた。指尖ほどの小さな花ではあるが、光に透いて見える濃い紫が如何にも鮮かで、じめじめした暗鬱な周囲に美しい調和を与えている。そして昼なか、僅に日光の縞がこぼれかかる時になると何処からか一疋の蜥蜴がやって来て、その花蔭にじっと身を温めるのが見えた。若い武士がそれをみつけたのは、彼が其処へ来てから三日目のことであった。それから幾日も幾日も、真昼のその時刻になるごとに、彼の眼は自然と其方へ惹かれ、かなり長いことその小さな生物の動作に気を奪られるのであった。季節はもう秋であった、そのうえ陽射の弱い空気の冷えたそのあたりでは他に仲間も無いであろう、おそらくその蜥蜴も越冬の穴へはいる時が来ているに違いない。まだ稚そうだし、背中には美しい縞を持っているが、動作も緩慢なうえにひどくもの憂げな眼つきをしていた。日光の縞が斑にこぼれて、深山竜胆の鮮かな紫を染める時になると、蜥蜴はどこからかそろそろと這出して来て、定ったように或る一本の花蔭に身を落着ける。円いつぶらな眼をうっとりと閉じ、長い尾尖を力無げに曲げ、僅な陽射しの下でじっと動かなくなるのだ。