Japanische Klassiker mit Furigana
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かんおけのはなよめ
棺桶の花嫁
海野 十三
Lesen Sie 棺桶の花嫁 (かんおけのはなよめ) von 海野 十三 (うんのじゅうざ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 42.845 Zeichen · 86 Bildschirme
帰りついたのは、かれこれ十一時であったろうか――。
駈け足も同然に、バラックの幕を押しわけて家のうちに飛びこんだ杜は、その場にハッと立ち竦んだ。そこに海軍毛布を被って寝ていると思ったお千の姿が見えないのであった。寝床はそこに敷っ放しになっていたが、藻ぬけの殻だった。しかし毛布は、人間の身体が入っていたことを証明するかのように、トンネル形にふくれていた。枕は土間にとんでいた。
「お千、オイお千、――」
杜は女の名を呼びながら、厠を明けてみた。だがそこにもお千の姿はなかった。
「――とうとう、お千のやつ、逃げてしまったんだな」
杜は悲しみと憤りとに、胸がはり裂けんばかりになってきた。考えてみれば無理のない話でもあった。昔世話になった五十男といえば、ひと通やふた通でない深い情交であったに違いない。杜とはほんの僅かなことで結びついただけであった。ことに震災というものがどこまで深刻なものやら判らなかった時代に、彼はお千から大いに頼られたのであって、震災もここに二十四日、惨禍は大きかったけれど、もうそれにもいつしか慣れてしまって、始めの大袈裟な恐怖や不安がすこし恥かしくなる頃であった。