Japanische Klassiker mit Furigana
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たてごし
楯輿
山本 周五郎
Lesen Sie 楯輿 (たてごし) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N1. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N1 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.377 Zeichen · 17 Bildschirme
「その名さえとどめずに……」かれはいま戦場のまっただ中にいることさえ忘れ、屹と空をふり仰いで呟いた。「その名さえとどめずに」そうだ、そこにもののふのまさしい姿がある。武士にとって戦場へ臨むことは異常事ではない、改めて覚悟すべきことなどある筈はなかった。自分はつねづね「死にざま」ということを考えていた、いさぎよく死ぬ決意こそもののふの面目だと信じていたが、死にざまなどを考えるのは寧ろ我執である、死にざまなどはどうでもよい、功名てがらが末のことだとすれば死にざまなども末の末だ、生も死も超えてひたむきに闘う、名もとどめず戦場に屍をさらす、そこにこそまことの面目があるのだ。「ああ……」再びそう呻くと、かれの眼に熱涙がつきあげてきた、胸膈がひろがり、生れてはじめて肺いっぱいに呼吸のできる気持がした。今こそ妻の心ざまもみえる、大阪へ立ったあと始末のみごとさは、それが平生のたしなみだったからである、その場に臨んで始末しなければならぬようなものはなにも無かった、どんな運命に直面してもすぐに立てる、ふだんの用意と心がまえのあらわれだったのだ。「これでよい」かれは口のうちでしっかりと呟いた。