Japanische Klassiker mit Furigana
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はしのした
橋の下
山本 周五郎
Lesen Sie 橋の下 (はしのした) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.189 Zeichen · 25 Bildschirme
老人は微笑しながら見返していた。
若侍は礼を述べて、そこを出てゆき、岸の上へあがった。
東のほうに遠く、隣藩との境をなす伊鹿山が見え、その上にひろがっている棚雲が、金錆色に染まっていた。若侍は岸に立って橋を眺め、橋の下を見やった。あたりはもうすっかり明るいが、橋の下は暗く、ひっそりとしていた。
――ここはまったくべつの世界です。
老人はそう云った。
たしかに、岸を歩く者も、橋の上をとおる者も、そこに人が住んでいるなどとは気づきもしまいし、たとえ気づいたにしても、なんの関心をもつこともないだろう。いままで老人と語りあった彼でさえ、岸の上へあがってみると、眼のさきにあるそこがはるかに遠く、焚火の火や、老人の姿や、茶を啜ったことまでが、まるで現実のことではないように感じられるのであった。
「怒りや悲しみや、苦しみさえも、いいものです」と若侍は呟いた、「――いいものです」
彼は自分が変ったことに気づいたようだ。彼の顔はなごやかになり、その眼には謙遜な、あたたかい光りがあらわれている。彼は唇に微笑をうかべ、そうして口の中で暗誦するように呟いた。
「心に傷をもたない人間がつまらないように、あやまちのない人生は味気ないものだ」