Japanische Klassiker mit Furigana
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はぐるま
歯車
Lesen Sie 歯車 (はぐるま) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 25.267 Zeichen · 52 Bildschirme
彼は現に寝台車の中に幽霊を見たとか云うことだった。が、僕は巻煙草に火をつけ、努めて金のことばかり話しつづけた。
「何しろこう云う際だしするから、何もかも売ってしまおうと思うの」
「それはそうだ。タイプライタアなどは幾らかになるだろう」
「ええ、それから画などもあるし」
「次手にNさん(姉の夫)の肖像画も売るか? しかしあれは……」
僕はバラックの壁にかけた、額縁のない一枚のコンテ画を見ると、迂濶に常談も言われないのを感じた。轢死した彼は汽車の為に顔もすっかり肉塊になり、僅かに唯口髭だけ残っていたとか云うことだった。この話は勿論話自身も薄気味悪いのに違いなかった。しかし彼の肖像画はどこも完全に描いてあるものの、口髭だけはなぜかぼんやりしていた。僕は光線の加減かと思い、この一枚のコンテ画をいろいろの位置から眺めるようにした。
「何をしているの?」
「何でもないよ。……唯あの肖像画は口のまわりだけ、……」
姉はちょっと振り返りながら、何も気づかないように返事をした。
「髭だけ妙に薄いようでしょう」
僕の見たものは錯覚ではなかった。しかし錯覚ではないとすれば、――僕は午飯の世話にならないうちに姉の家を出ることにした。