Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けのゆびわ

毛の指環

宮本 百合子

Lesen Sie 毛の指環 (けのゆびわ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.492 Zeichen · 9 Bildschirme

Aozora Bunko

静かな、闊やかな、充実した自然がかっちり日本的な木枠に嵌められて由子の前にある。全く、杉森をのせ、カーバイト会社の屋根の一部を見せ、遠く遠くとひろがる田舎の風景は、手近いところで一本、ぐっと廊下の角柱で画される為、却って奥ゆきと魅力とを増しているようだ。

由子は、樟の角机に肱をつき目前の景色に眺め入っていた。樟は香高い木だ。その芳ばしさは如何にも八月の高燥な暑さや澱みなき日の光と釣り合って、隈なき落付きというような感情を彼女に抱かせる。

――そうやっていると、彼方の庭までずっと細長く見徹せるやや薄暗い廊下をお清さんがやって来た。白地の浴衣に襷がけの甲斐甲斐しさだ。彼女は由子の傍へ来ると、

「ちょっと、こんなもの」

と云って膝をつきながら、笑って両手の間に小さい紫のメリンスの布をひろげて見せた。

「何なの」

「あなたのでしょう」

「あら? 前かけね」

「長持ちのお布団の間から出たんですよ」

由子は漠然と懐しささえ感じて、そのメリンスの小っぽけな前掛に触って見た。前掛と云っても、袷の膝をよごさない為ほんの膝被いのつもり故、紫の布は僅か一尺余りの丈しかなかった。もう虫が喰っていた。