Japanische Klassiker mit Furigana
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すいがいざつろく
水害雑録
伊藤 左千夫
Lesen Sie 水害雑録 (すいがいざつろく) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.302 Zeichen · 25 Bildschirme
一
臆病者というのは、勇気の無い奴に限るものと思っておったのは誤りであった。人間は無事をこいねがうの念の強ければ、その強いだけそれだけ臆病になるものである。人間は誰とて無事をこいねがうの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持った者、殊に手足まといの幼少者などある身には、更に痛切に無事を願うの念が強いのである。
一朝禍を蹈むの場合にあたって、係累の多い者ほど、惨害はその惨の甚しいものがあるからであろう。
天災地変の禍害というも、これが単に財産居住を失うに止まるか、もしくはその身一身を処決して済むものであるならば、その悲惨は必ずしも惨の極なるものではない。一身係累を顧みるの念が少ないならば、早く禍の免れ難きを覚悟したとき、自ら振作するの勇気は、もって笑いつつ天災地変に臨むことができると思うものの、絶つに絶たれない係累が多くて見ると、どう考えても事に対する処決は単純を許さない。思慮分別の意識からそうなるのではなく、自然的な極めて力強い余儀ないような感情に壓せられて勇気の振いおこる余地が無いのである。
宵から降り出した大雨は、夜一夜を降り通した。